HP研修報告 R6.1-R6.3

3月10日 東海税理士会

 マルチメディア研修で、「行政不服審査法に関する研修会」を受講しました。研修の収録は平成30年(2018年)4月3日、4日に行われたものでしたが、基本的に変わっていないので、内容的には現在にも通じるものでした。研修時間は5.5時間でしたが、内容は1.行政不服審査法について、2.地方公共団体の第三者機関委員の仕事~事例を参考に、3.地方公共団体の事務と行政不服審査法、4.行政不服審査会の第三者機関としての位置づけ、の4つでした。
 行政不服審査法は1962年に制定・施行されて以降、50年以上本格的な改正は行われていませんでした。それが、2016年に成立し公布されました。この改正に合わせて特別法である国税通則法も改正され、税理士業務としては国税通則法が関係します。しかし、税理士として市町村等の行政不服審査会委員になる機会があり、もう一度復讐をしたいことと、他の人の経験談を通して業務について確認することが必要と思い受講しました。審査会ができることで、審査庁が行った判断を第三者機関として検討することで透明性が増すことが期待されている。実際、行政不服審査会に参加してみて思うことは、審理員はその業務を担当していなかったとはいえ同じ行政職員であるので、最初に行政処分を行った職員への忖度が働いたり、行政職員の常識が世の中の常識とずれていることに気が付いていない、ということを感じたりしました。
 もちろん、住民の権利は守られるべきであることは当然なのですが、行政不服審査会に上がってくる事案を通して、行政職員が学び、最初の受付でこじれないように気をつけていたら防げることがあると思うので、お互いに学びが必要だと思います。そういう意味でも、今回の研修は役立つものでした。

2月7日 TKC中部会生涯研修

 この日は、税理士の笹岡宏保先生に『財産評価のキーポイント』と題して、講義をしていただきました。大きく分けて2つの項目に分かれていました。1.土地評価の係る諸論点と2.株式評価に係る6項の事案についての確認でした。1については①「宅地造成費の考え方」②「地積規模の大きな宅地の評価方法」③「非線引き区域にある雑種地の評価」について学びました。③については令和4年の裁決事例を通して、実務的な考え方を学びました。2については令和3年8月27日裁決事例を通して学びました。
 本件事案は、被相続人の死亡による相続財産の評価において、被相続人が持っていた株式の評価についてであった。対象評価会社は評価通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)に定める評価上の区分小会社に当たるとして、同通達179(取引相場のない株式の評価の原則)の定めに基づき、同通達180(類似業種比準価額)に定める1株当たりの純資産を用いて評価する方式を選択し、本件株式の価額を総額**円(1株当たり1,853円)と評価して申告したところ、原処分庁は、本件法人が評価通達189(特定の評価会社の株式)なお書により、株式保有特定会社と判定されること前提に、本件株式については、同通達189-3(株式保有特定会社の株式の評価)ただし書が株式保有特定会社について定める『S1+S2』方式により評価することが著しく不適当と認められる特別の事情があるとして、本件指示に基づく純資産価額方式により、その総額を**円(1株当たり3,443円)と評価すべきと主張するものである。
 ここにはいくつか問題点があると指摘されている。1つは株式価格の評価について監査法人(民間の専門機関)、に依頼しているのであるが、株式の評価の鑑定書は不動産における不動産鑑定士のような、資格を有しないものができるので、その客観性に疑問があることである。もう1つは、相続人が相続税対策のためにシンクタンクとやり取りしたメール情報を質問検査権で取得して全部調べ、他の対策と併せて相続税対策と認定し、「本件株式評価額の乖離は、その金額自体において、請求人(相続人)らと同等の措置を採らなかった他の納税者との関係において租税負担の実質的な公平を問題にすべき水準というべきである。」と判断しているが、これが世の中に通じるか?と疑問を呈してみえることである。また、3つ目として、本件法人は営業しているが、お客さんがこないので利益がでない、だから純資産価額で評価する、という理屈が正しいか?と、純資産価額方式の合理性についての主張に疑問を呈していること。
 取引相場のない株式とは、ひとつとして同じ事情のものはないので、個別の事情について検討すべきことが多いなあと改めて考えさせられました。

HP研修報告 R5.10-R5.12

12月22日 TKC中部会租税判例研究会

 当日は第1事案「貸付残債権の放棄による資産損失と雑所得の必要経費算入の可否」(東京地裁令和4年7月14日判決)と第2事案「税理士の善管注意義務違反と賠償額制限条項の適用の有無」(令和5年6月21日判決)の2題を使っての研究会でした。
 私にとっては第2事案のほうに関心があったので、そちらに力を注ぎました。第2事案は、新規開業者の相談を受けたときに消費税の課税事業者を選択したほうが有利だったのではないか、第3期より簡易課税を選択しているが本則課税の方が有利だったのではないかとして損害賠償請求を受けた事案でした。この問題を通して感じたのは、最初の情報収集の重要性と、その情報に対する判断が大切だということでした。今まで関係のなかった人から欲しい情報を全部もらうための良い質問をすることはとても大切です。また、事業内容が複雑で判断に困る時には、税務署への事前相談も含め、慎重な判断をすることが大切です。消費税の判断を誤ると、その判断の誤りが何期も続くことになり、問題が大きくなるからです。
 また、税理士は、税務に関する法令及び実務の専門知識を駆使し、かつ、依頼者からの事情聴取、適正な調査等を行うなどして、税制の有利選択に必要な程度まで事実関係を把握し、税理士業務を行うものであるが、税理士が職務上予測されるあらゆる場面に応じた注意を払うことを期待するのが酷であり、かつ、時として損害賠償額が巨額に上がることがあり得ることを考慮して損害賠償額制限条項を設けられたものと解されるが、最初の契約書に損害賠償額制限条項(例えば、顧問報酬の何年分を限度とする)があったとしても、税理士に故意又は重大な過失がある場合には適用されないと判示されています。
 心して実務に臨みたいと思います。

12月4日 TKC中部会尾張支部

 「今だから聞きたい!インボイス制度開始後の実務」と題して、会員がファシリテータ―及びコーディネーターを務めてくれて、実際に何に苦戦し、何をどう取り組んでいるかを聞けたのは非常に役にたちました。みんな同じように苦戦しているなとか、そんなふうに工夫しているんだ、ということがわかりました。インボイス制度はうたい文句はいいのですが、実際の実務においては関与先(事業者)の負担がとても大きいので、少しでも負担が少なく、消費税法の要件に耐える方法をみつけなければならないという思いを強くしました。

11月16日 東海税理士会成年後見専門研究会

 当日は、東海税理士会の会員が成年後見人に就任し、後見事務を行った実体験を、その時々の書類を見せてもらってお話をしていただきました。生の経験談を聞けたのは本当に貴重な経験でした。今後成年後見人としての業務を受任するかどうかは裁判所の判断によりますが、税理士としては、被後見人の財産管理のために任意後見人になることは需要があるのではないかと考えているので、とても参考になりました。

11月10日 TKC全国資産対策研究会

 TKC全国資産対策研究会は11月より来年の9月まで隔月で開催される研究 会のうちの4回において、『非上場株式の評価実務ハンドブック』を使って研修が開催されることになりました。今までも何度か非上場株式の評価についての研修がありましたが、最新の情報に知識をブラッシュアップしておくことは必要ではないかと思い、受講することにしました。
 今回は第1回目なので、評価明細書の全体像をつかんで、株主の判定方法について確認しました。普段の業務ではパソコン入力しているので、入力した情報がどのように連携しているかわかりにくいのですが、手書きで入力してみることで、数値のつながりが鮮明になりました。また、株主の判定においては、誰を中心にするかで該当者が異なることになるので、誤らないよう練習問題がついていて、自分の知識のおさらいをしました。

10月13日 日税連公開研究討論会

 今年の日税連公開研究討論会は、日本税理士会連合会、名古屋税理士会及び東海税理士の共催により名古屋で行われました。第1部は「ライフイベントと税」というテーマで東海税理士会が担当し、第2部は「改正民法等が招いた税理士実務への影響について」というテーマで名古屋税理理士会が担当でした。
 東海税理士会ではライフイベントのなかでも離婚における「財産分与と税」についての研究発表がありました。
 離婚に伴い財産分与がされたり、慰謝料が支払われたりすることは一般に知られていますが、これが現金で清算された場合には税金がかからないが、お金に代えて不動産で渡した場合には、不動産を手放した側に譲渡所得税が課せられるということは、納税者の理解が得られ難いという指摘があります。しかし、財産分与としての資産の移転が譲渡所得課税の対象となることを判示した最初の判決が最高裁昭和50年5月27日判決です。「夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる。この財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停、若しくは審判又は地方裁判所の判決をまって具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によって発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体1つの経済的利益ということができる。したがって、財産分与として不動産の譲渡等をした場合、分与者は、これによって、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。」と判示されました。この判決以後は、この判断に従った処理が行われています。
 しかしながら、納税者の納得を得られないこともあり、その後も何度も裁判所の判断を仰ぐ事件がおきています。東海税理士会の研究では、問題点の抽出とともに、解決に向けての提言も行っていました。
 名古屋税理士会の研究発表については割愛します。

HP研修報告 R5.8-R5.9

9月14日 東海税理士会成年後見専門研究会

 東海税理士会愛知県支部、名古屋税理士会、愛知県弁護士会との共同研究が行われており、そのテーマのひとつが「信託組成時の注意点と信託終了時の税務上の落とし穴」でした。その研究発表は令和4年10月の会報に掲載されましたが、それをもとに本年5月には同専門研究会において税理士の村井香苗先生より解説がありました。今回はこの研究グループに所属してみえた東海税理士会所属の税理士 深谷裕寿先生 の解説がありました。
 何度聞いてもいまひとつ腹に落ちないのは債務の取り扱いです。それは、借入時の契約によってその後の扱いが変わるからで、債務付きの資産を信託財産とする場合に注意が必要なのと、委託者の相続開始時を信託終了としないで、受益者連続型の信託契約にすること。そして、信託開始後受託者が借入れをして受託財産の修理あるいは建築をする場合の契約の仕方にあるようです。
 長生き時代を生きるには知恵がたくさん必要なようです。

8月17日 東海税理士会

 税理士 笹岡宏保先生による研修を受講しました。「今、話題の項目を確認する!!『評価通達6の実務運用』(法令解釈等、裁判例・裁決事例の確認)」というテーマでお話をいただきました。
 そもそも「評価通達6」とは、財産評価通達第1章総則第6「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という規定のことで総則6項と言われているものです。この「著しく不適当」の意義について、先例とされるべき裁判例及び裁決事例では「評価通達による評価が、時価の評価として合理性を有する限り、納税者間の公平の見地から、原則としてすべての納税者との関係で評価通達による評価を行う必要があるが、例外的に、評価通達による評価方法によらないことが正当と是認される『特別の事情』がある場合には、別の合理的な評価方法によることが許されるものと解するのが相当である」とされている。よって、「著しく不適当」とは「特別の事情」と同義である。そして、この「特別の事情」の判断基準として4要件説と3要件説とがある。
 4要件説とは、(1)評価通達による評価の合理性の欠如、(2)他の合理的な評価方法の存在、(3)著しい価額乖離の存在、(4)著しい価額乖離の存在と納税者の行為の介在の4つの条件が適用されるが、3要件説では(4)の要件を問わない。そして、そのどちらかで判断されることになる事例は、不動産と同族会社の株式の評価の事案にある。
 今話題となっている最高裁令和4年4月19日判決についての笹岡先生のご意見は以下のようにまとめることができるでしょう。
 この事案は何も相続対策をしないなら6億円の課税財産がある90歳を超える北海道在住の人が、金融機関からの借入金で東京杉並区と神奈川県川崎市にある高層マンションを購入(平成21年)し、平成24年に相続が開始した。この時マンションについては財産評価通達により評価し、それを大きく上回る借入金債務の存在により課税価格が2800万円となり、相続税額が0円となった。これに対してこの評価通達により難い「特別な事情」があるとして不動産鑑定評価額をもって課税庁が相続税の更正処分をしたというものである。
 この事案の最高裁の判断は先に述べた4要件説により「特別な事情」を判断している。(1)売却した1棟については5.5億円で所得し、相続評価が1.3億円、その後平成25年売却時点では5.15億円。売却しなかった1棟は購入価格8.37億円、相続評価2億円。この相続評価の正当性をだれも証明できない。(2)他の合理的な方法として課税庁は不動産鑑定評価を提示。(3)著しい価額乖離の存在はある。(4)著しい価額乖離の存在と納税者の行為も介在について最高裁は「被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、各不動産について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。」と判断されたものである。私にとって印象的だったことは、最高裁判決のなかで「本件各鑑定評価額は、いずれも、不動産鑑定士により、不動産鑑定評価基準に基づき、本件相続開始時における各不動産の正常価格として算定されたものである。」というのが違和感があったのですが、「不動産鑑定評価基準について税理士も勉強しなさい。そして、鑑定評価のウソを指摘しなさい。」と言われたこと(この裁判では納税者をそれを攻撃していない)と、この対象物件の不動産全部事項証明書をとってみたところ、某金融機関から借入れして購入、売却を繰り返している物件だったので、某金融機関が相続対策用に利用しているマンションだと指摘されたことでした。

HP研修報告 R5.4-R5.7

7月14日 東海税理士会 成年後見専門委員会

 当日は、行政書士の松尾陽子先生をお招きして「税理士に必要な信託実務の情報」と題した研修を受講しました。今まで松尾先生だけでなく、信託業務をいくつも手掛けている税理士の方の研修も受けてきました。その中でも解決しない疑問があり、今回の研修受講となりました。
 今回は、不動産収入の発生する不動産を信託財産とした場合、一つの信託契約内の損益でなければ損益通算できないこと、債務がある場合この債務の扱いによっては相続開始時に債務残高が債務控除できない場合もあるなど、信託を組む前に考慮すべき事項を所得税法、法人税法、相続税法の該当条文を確認しながら検討しました。今の問題、今後発生するかもしれない問題など、良く考えて信託契約をしなければならないな、と再確認しました。

7月10日 TKC中部会資産活用委員会

 税理士の山本和義先生を講師にお迎えして『これならできる!自社株対策』と題した特別研修会がありました。
 中小企業のオーナーとその後継者にとっては、自社株対策は事業承継対策の中でも必須事項です。当事者の方々に自社の株式の相続税評価額がどう計算されるかを理解してもらい、どう条件を変えたら株価が変わる(上がる・下がる)かを一緒に検討していくために、まずは基本をおさらいしました。そして、株式移動前に①株式譲渡制限を設けておく、②株券不発行としておく、③議決権に制限のある株式等を発行するなど、株式移動をさせる前のインフラ整備についても確認しました。こうしたことをした上で、今後の事業運営について考えて対策を検討していきたいです。株主は多いほうがいいのか、少ないほうがいいのか、それぞれの会社の特性も考えるべきです。正解はひとつではないと、改めて思いました。

6月26日 TKC中部会租税判例研究会

 この日の研究課題は第1事例「顧問契約に係る税理士の善管注意義務違反と債務不履行による損害賠償請求の可否」(東京地裁令和2年2月20日判決)と第2事例「所得税法の寡婦控除要件と憲法14条の平等原則適合性の可否」(東京高裁令和4年1月12日判決)でした。
 第1事例にあっては、①社長の横領を見抜けなかったのは税理士の善管注意義務違反、また②法人税法上適用が可能であった所得拡大税制の適用の失念に対する損害賠償請求を当該会社から受けたもの。①にあっては顧問契約内容を検討し、不正の発見し是正する義務までは規定されていなかったとして免除されたが、②にあっては当然に税理士に善管注意義務違反があったものとして損害賠償請求に応じることとなったが、その損害額の算定においては会社の請求通りとはならなかった。
 第2事例にあっては、寡婦控除と寡夫控除の要件が異なるのは憲法14条に違反するのではないか?というのが納税者の主張であった。平成24年から平成29年の所得税については、他の要件を満たす寡婦には所得制限がなかったが、寡夫については寡婦にはない要件として合計所得金額500万円以下という要件があった。「立法経緯からすると、裁判所の判断としては母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異等に鑑みて、寡夫について寡婦にはない所得制限を設けることとした目的は、寡婦にのみ認められていた所得控除を必要な範囲で寡夫にも及ぼすものであったものと解されるから、その立法木邸は正当なものである」として憲法14条には違反しないと判断されました。令和2年税制改正後は、そもそも合計所得金額が500万円以下の「ひとり親および寡婦」が対象となり、生計を一にする子があれば「ひとり親控除」、寡婦にあっては生計を一にする子がなければ、夫の死別後再婚していない、あるいは扶養親族があれば「寡婦控除」の適用を受けられることになった。税制改正があったからといって、男女差による区別は存在しており、平等原則の反するとの思いはぬぐえない。

6月8日 東海税理士会

 税理士 金井恵美子氏を講師に迎え「消費税インボイス制度~最新情報と実践的論点の検討~」と題した研修がありました。令和5年度税制改正によるインボイス制度の見直しがされた項目を中心にお話されました。
小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)
登録制度の見直しと手続きの柔軟化
1万円未満の返還インボイスの交付義務免除
一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)
です。①については免税事業者が令和5年10月1日以降初めて課税事業者に」なる場合の事務負担及び納税額の軽減のため、制度開始から3年間は納付すべき消費税額を売上税額の2割とするものです。その間にこの特例がはずれた場合に備えて消費税法の要件を満たすよう準備し、本則課税かあるいは簡易課税を選択するかなど検討、準備する猶予期間を得られます。③は1回の取引が1万円未満の値引き等であれば、返還インボイスの交付義務が免除されることになったので、振込手数料相当額の値引き処理がインボイスがなくてもできることになりました。実務を考慮した見直しでしょう。④は年間売上高1億円以下又は特定期間における課税売上高5000万円以下の事業者は、1回の取引が1万円未満の課税仕入れにあっては、インボイスが発行されなくても(すなわち免税事業者からの購入であっても)帳簿のみで仕入れ税額控除が満額できるということです。これは6年間の特例措置です。
 いよいよインボイス制度の開始が目前に迫り、実務的に何をしておけば10月1日を安心して迎えられるか、今一度振り返るよい機会となりました。

5月22日 TKC中部会 生涯研修

 この日は、2022年1月以降労働法関連の法改正が多数行われ、中小企業にあっても知らなかったではすまされないことを、2人の講師からいろいろお話を聞きました。第1部は社会保険労務士の神谷喜代子先生から、労働基準法、育児・介護休業法、年金制度改正法など、2022年1月からでも数回にわたり改正されているその内容、理由、事業者の対応などのお話がありました。事業者としては、「法がだんだんきつくなる」と感じてみえるかもしれないが、ハラスメントをなくし、時間外労働を削減し、年次有給休暇の取得を義務付けたとしても、働き甲斐にはつながらず、業績向上は期待できません。企業にとって一番大切なのは働く者が「働きやすく、やり甲斐」もあるいきいき職場を目指すこと。働く者から選ばれる会社になるために【「働きやすさ」と「働き甲斐」】の両方を追求して生産性の高い企業になることを目指して欲しいと締めくくられたのが印象的でした。
 第2部のSCCC・リアルタイム経営推進協議会理事長の兼子邦彦様からは、「労働法」「安全運転管理者」「個人情報保護法」等に、いろいろな業種、規模の企業がどのように対応しているかということを豊富な事例で紹介していだきました。考えて仕組みを作っているところ、作った仕組みを維持していく工夫をしているところなど、学ぶべきところがいくつもありました。すべて従業員を縛るのではなく、会社を守り、ひいては従業員を守るというスタンスで会社のルールを作ることが大切です。今後の災害等に備えたルール作りにも言えることだと感じました。

5月18日 東海税理士会

 成年後見専門研究会主催の民事信託研修を受講しました。講師は近畿税理士会所属税理士村井香苗先生による「私たち税理士が家族信託を提案するときに『知っておきたい15のポイント』と題する研修でした。
 当日の研修は東海税理士会報2022年10月号に掲載されていた『信託組成時の注意点と信託終了時の税務上の落とし穴』と題する三会共同研究会成果発表『弁護士と税理士が考える民法と税務の接点』の中の1つを題材にして、より詳しい説明をいただきました。私もこの研究会のメンバーとして勉強していたので、大変興味深く勉強させていただきました。
 当日の研修のなかで、一番関心があったのは債務の扱いです。信託財産にできるのは積極財産のみです。例えばアパートの土地建物と金銭を信託財産にする場合に、そのアパート建築時からの借入金があり、その借入金を「信託財産負担債務」とする場合、信託財産でもしその借入金が返済できないこととなった場合には、受託者の債務になる(無限責任債務)ので、「限定責任債務」となることを予め信託契約の中に盛り込まなくてはならないこと。また、その借入金を限定責任債務とするためには満たさなければならない条件があること。委託者(=受益者)に相続が発生した場合、新たに受益者となる者が旧受益者の相続人又は包括受遺者である場合には、その借入金を相続税の申告において債務控除できるが、そうでない場合には債務控除することはできないこと等々、以前から気になっていたことを整理してお話いただいたので、随分頭の整理ができました。
 信託契約にすれば、長いスパンで委託者の望むように財産の活用を組成することができますが、先々のことまで想定して用心深い信託契約を結ぶことが本当に大切だと実感しました。

4月28日 月刊「税理」令和5年5月号別冊WEBセミナー

 税理士の金井恵美子先生が講師をされていた「消費税インボイス制度~令和5年度税制改正~」を受講しました。
 インボイス制度の導入が今年の10月1日に迫った今、令和5年度税制改正により何が変わったのか(宥恕規定は何か)を、インボイスを発行する側、インボイスを受け取る側に分けて、わかりやすくお話していただきました。私にとっては「返還インボイスの交付義務免除」の確認ができたことがありがたかったです。

4月27日 TKC中部会 ニューメンバーズフォローセミナー

 TKC東京中央会の会員である税理士の北條貴裕先生による「FXクラウドとDXで経理の適正化と合理化を実現!~証憑のデジタル化・キャッシュレスによる合理化事例を大公開!~」と題するセミナーを受講しました。新入会員向けのセミナーにもかかわらずベテラン会員の受講が多かったのには、驚きました。時代の流れに合わせて変化し続けなければならない、というのを一層感じた研修でした。
 そもそもDXとはいかなるものか。講師による定義は、大枠では「Digitization(デジタイゼーション)アナログ・物理データのデジタルデータ化」と「Digitalization(デジタライゼーション)個別の業務・製造プロセスのデジタル化」があり、後者の中にはさらに「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革」が含まれているという複層構造で捉えるということでした。データをPCで管理すれば自動的にデータが何でも役立つものになるわけではない。最終的にお客様にとってこれらのデータをどう使い、どう役立てるのかという視点で物事を進めなければ意味がないということ。電子取引、証憑のスキャナ保存、電子インボイス対応などは、Digitization(情報のデジタル化)にすぎない。デジタル化した情報を、業務プロセスに合わせて一気通貫にする(電子証憑からの仕訳計上、銀行信販データからの仕訳計上など)。そして、デジタルデータを使って、本当に管理したいこと、確認したいことを活用して経営戦略に生かすための行動がDigital Transformation。これを最初から設計されているのがTKCのシステムであるということでした。
 コロナ禍にあって、否応なくデジタル化が進んでいるようにみえるけれど、実は企業がこれからどんな分野でどんなことをしていきたいのか、そのためには自社の何をどう変えていかなければならないのか、検討しないで闇雲にDigitizationを進めても無駄ということなんだなあ、と感じました。

HP研修報告 R5.1-R5.3

3月26日 東海税理士協同組合

 弁護士・税理士・東京会所属の谷原 誠先生のマルチメディア研修受講「相続税業務に不可欠な民法知識」を受講しました。相続開始から相続税申告までの10か月のスケジュールを確認し、その順番で民法改正事項を確認していきました。
 まずは、遺言書について。自筆証書遺言の作成方法、自筆証書遺言の法務局での保管制度、そして、公正証書遺言を作成する手順、遺言書は何度も書き直せることへの注意点などお話しされました。そして、次に相続人の確定について。養子と代襲相続についてと、相続人不存在の場合の手続きについて説明がありました。次に相続の承認・放棄について。相続放棄をどんな場合に検討するか、相続放棄をするなら何をするか、何をしてはいけないかなどの注意点が話されました。次に相続財産の確定について。民法改正により遺産分割協議成立前の預貯金払戻制度ができたことの他従前からの注意事項が話されました。次に相続分。民法改正による相続人以外の者の特別の寄与について説明されました。次に遺産分割。遺産分割についてどう考えるか、遺言書がある場合に遺言書によらない遺産分割について、また遺産分割前に遺産を処分してしまった場合の取り扱いなどなど。次に、配偶者居住権について。民法改正で成立した新しい考え方であり、気の毒な配偶者を救済する規定です。次が、遺留分について。これも民法改正により遺留分侵害額請求権(債権)となり、今日的課題に対処するものです。
 そして最後に相続業務での税理士損害賠償事例についてお話がありました。相続案件を受任した時からの助言・説明・依頼事項など書面、メールで残しておくことが後の争いを避けるのに重要であると痛感しました。

2月8日 TKC中部会 生涯研修

 税理士 笹岡宏保先生 にTKC名古屋研修所にお越しいただき、「最高裁判決で確定 今、話題の項目を確認する!!『評価通達6の実務運用』(法令解釈等、裁判例・裁決事例の確認)」というタイトルで研修をしていただきました。
 この判決は税理士業界をざわつかせていて、たくさんの先生方がいろいろなところに判例評釈を載せてみえます。笹岡先生も月刊「税理」7月号、8月号に書いてみえたので、当日は先生がどんな話をしてくださるかと楽しみにして参加しました。
 研修では、前半で①まず、評価通達6(「総則6項」と言われている)の文言の解釈から始まり、②評価通達6が適用されるための構成要件(四要件説と三要件説)、③②の不動産、同族会社株式についての具体的な適用事例を確認し、④同族会社株式の相続税評価額について、課税庁が採用した民間会社の鑑定評価額が採用された事案(令和2年7月8日裁決、仙裁(諸)令2-4)についての検討と批判をされました。
 そして、後半で東京地裁令和元年8月27日判決、東京高裁令和2年6月24日判決、最高裁令和4年4月19日判決について、各裁判所の判断についての丁寧な解説及び問題点の指摘がありました。この事案の最高裁判決の骨子は、①相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、相続税法22条に違反するものではない。そのことは、当該価額が財産評価通達の定める方法により評価した価額を上回るかどうかによって左右されない。②その価額と平等原則の関係について、最高裁判決で示された法令解釈をまとめられた。(イ)原則的な取扱い(合理的理由がない場合)と(ロ)例外的な取扱い(合理的な理由がある場合)があるが、この合理的な理由について検討され、四要件説で「特別な事情」を判断しているのではないか、ということでした。また、裁判では争われなかった本件鑑定評価を検討され、その杜撰さを指摘されました。いろいろな角度からの検討を要することを学んだように思います。

1月27日 TKC中部会 新春特別講演会

 井村屋グループ㈱シニア・フェロー井村正勝氏においでいただき「「あずきバーはなぜロングセラー商品なのか~老舗企業が変化すること、守ること~」と題してお話をしていただきました。
 井村屋さんは明治29年の菓子舗「井村屋」(ようかん製造)開業を出発点とし、第二次世界大戦後生還した20人の兵士仲間で何か生きていく手段を探していた中で、井村さんが自分の家が菓子屋であることを生かして昭和22年4月に株式会社井村屋を設立されたのだそうです。だから、最初から同族会社ではない。三重県津市に本店のある会社です。昭和36年に名古屋証券取引所第2部上場。商品開発、事業展開を進めるとともに、会社の名前の変更、井村屋グループ株式会社設立と経営形態が変わってきています。ロングセラー商品に頼ることなく、大切なものを守りながら変化しているということでした。昭和47年に外資系レストラン開業のために社長命令で井村正勝氏がアメリカに送り込まれ、アメリカンフードとホームメイドパイを売り物とするレストランで修行し準備してきたアンナミラーズ第1号店が昭和48年東京青山で開業されました。「あなたの喜びは私の喜びYour pleasure is my pleasure.」を知ったこと、そのことが井村氏にとっての変換点であったようです。だから、この時の話を始めたら止まらないというのが印象的でした。

HP研修報告 R4.11-R4.12

12月5日 TKC中部会愛知北大和部会

 TKC東京中央会の会員でもある税理士の畑中孝介氏においでいただき、「不動産経営における消費税インボイス制度の実務対応」と題する研修が、会場開催されました。
 まずは、インボイス制度についての概略の説明がありました。インボイスとは何か、このインボイスとは、適格請求書発行事業者だけが発行できる適格請求書のことであり、売り手側・買い手側にどんな影響を及ぼすか、のお話の後、本日の議題である賃貸建物の所有者がこの制度をどうとらえるか、という問題について話されました。
 不動産事業者特有の問題は、不動産収入には不課税のものと課税のものがありますが、その不動産事業者にとってどちらの収入が多いかということで検討すべきことが異なるという問題、消費税の課税事業者になった場合、本則課税か簡易課税かを選択することになりますが、支払者としての立場から考えると1棟の建物の大型修繕は毎期発生するとは考えにくいので、所有する不動産物件の数によりどちらを選択するのがいいかの検討を要するという問題、不動産が共有の場合、それぞれの所有者が適格請求書発行事業者かどうかによって扱いが異なる問題、不動産管理組合で組合員以外に駐車場を貸している場合の賃貸収入が消費税の課税収入になるので、インボイス発行事業者になることの要否の検討が必要、投資事業有限責任組合等(任意組合)が事業として行う課税資産の譲渡等について、組合員全員が適格請求書発行事業者でない限り、インボイスの発行ができない等々、問題は多岐に亘ること、その一つ一つについてお話がありました。
 この日のお話にはありませんでしたが、不動産賃貸の場合、最初に不動産賃貸契約を結ぶだけで毎月の請求書・領収書の発行がない場合が多いと思われます。不動産事業者がインボイス番号を取得したならば、インボイス番号がある契約書をもう一度締結して、毎月の取り扱いについて明記することが必要となるでしょう。

11月14日 TKC全国会資産対策研究会

 資産対策研究会秋季特別研修会において、税理士 坪田晶子氏と、弁護士 坪田聡美氏による「民法・不動産登記法 相続土地国庫帰属法によりこう変わる!!」と題する研修を受講しました。
 当日のお話の概要は、次の通りです。1.相続開始時の遺産の権利状態 2.持ち戻し財産と特別受益とは? 3.特別受益と寄与分について期間制限が設けられる 4.配偶者居住権とは 5.配偶者居住権の相続税評価額 6.遺留分制度の見直し 7.所在等不明共有者がいる場合の対応 8.登記の義務化 9.相続人申告登記の創設(不動産登記法) 10.相続登記の登録免許税の免税措置について 11.相続税の死亡届の情報等の電子化 12.相続土地国庫帰属法の成立 13.遺言の仕組みや効力と検認 14.自筆証書遺言の法務局保管制度 15.法務局に保管されている遺言書への対応 16.税制改正大綱で相続税・贈与税一体課税が継続検討

 この講義内容を俯瞰してみると、今回の民法の改正により相続(税)実務がどう変わってくるかを考えることができます。
 今回のキーワードの一つが「10年」です。
 遺産分割の際、相続税法では①相続開始前3年以内贈与の額と、②相続時精算課税制度による贈与財産の額を加算して相続税の課税財産の額を計算しますが、民法903条では、生前に特別受益と言われる財産を取得している場合には、年数制限なく過去の贈与及び遺贈の額を加えたものを相続財産とみなして各人の具体的な相続分とするとしています。しかし、民法改正により令和5年4月1日から施行される民法904条の3によれば、相続人間で遺産分割協議が整わないまま10年を経過すると家庭裁判所において遺産分割審判を行う際には、相続開始後10年経過前に家庭裁判所に遺産分割請求をしているか、10年の期間満了前6か月以内に、遺産分割請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあり、かつ、やむを得ない事由消滅時から6か月以内に家庭裁判所に遺産分割請求をしたときを除き、903条に規定する特別受益の存在を主張できなくなります。
 また、相続人が遺留分侵害額請求をする場合における、遺留分の算定基礎となる特別受益の加算において、贈与者・受贈者の双方が遺留分権利者に損害を与えることを知らなかった場合には相続開始前10年以内のものに限る(民法1044条3項)とされました(以前は無制限。そして、知っていてした特別受益は従来通り期間無制限)。そして、この権利を行使できるのは①相続開始をしった日、かつ、侵害額請求すべき贈与又は遺贈があったことを知った日から1年以内、又は②相続開始から10年を経過する日です。
 また、相続人のなかに所在不明者がいて不動産が共有状態になっていても、相続開始から10年を経過すれば、不在等不明相続人の持分相当額を供託すれば、取得したり、譲渡したりすることができることとなりました(民法262条の2③、262条の3②)。
 そして、相続土地国庫帰属法の成立により、条件がそろった土地に限るとはいえ、10年分の管理補相当額を支払えば相続土地を国にもらってもらうことができるとされました。

HP研修報告 R4.9-R4.10

令和4年10月15日 東海税理士会愛知県支部連合会

 「弁護士と税理士が考える民法改正と税法の留意点」と題して研修がありました。この日話してくださったのは、私も所属しています三会共同研究会(愛知県弁護士会、東海税理士会愛知県支部、名古屋税理士会の各参加委員で構成されている)の東海税理士会のメンバーの方々でした。三会共同研究会は3つのグループに分かれていて①配偶者居住権をめぐる民法と税法の留意点、②遺留分侵害額請求権をめぐる民法と税法の留意点、③居住用不動産の遺贈・贈与をめぐる民法と税法の留意点についてそれぞれが1年をかけて検討し、それぞれの会報において研究成果を発表しています。
 どれも喫緊の課題であることはタイトルを見ただけでわかると思います。私自身は第2グループに所属しているのですが、他のグループで検討されてきたことも併せて報告を聞くことができて、事案に対する注意点が見えてきたように思います。配偶者居住権については安易な適用は考えものです。その制度を利用することで真に救われる方が利用すると良いと思います。遺留分侵害額請求権については、金銭債権になったことで、遺留分請求により全ての財産が共有になってしまったという欠点は補えますが、金銭で渡せないから不動産で渡すことにした場合には新たな課税(譲渡所得税の負担)が発生します。遺言書を作成する前に全ての相続人に目配りして検討することが大切なことに変わりはないように思います。居住用不動産については、共同相続人の中に被相続人から生前贈与や遺贈によって財産を譲り受けた者がいる場合、民法は原則として当該財産(特別受益)も遺産に含めて各相続人の取得割合(具体的相続分)を計算し、遺産分割を行うこととしていますが(民法903条1項)(これを「持戻し」という。)、例外として、被相続人が持戻し免除の意思表示をしていれば、持戻しの必要はないこととなっています(民法903条3項)。平成30年の相続法改正により、婚姻期間が20年以上経過した夫婦の一方から他方に対する居住用不動産の生前贈与・遺贈については、被相続人に持戻し免除の意思があったものと推定することとなりました(民法903条4項)。これは推定規定なので、配偶者の主張・立証と他の相続人の主張・立証によりどうなるかわからないということが説明されていました。そして、双方の主張・立証により考えられるパターンにより取得する遺産金額、相続税額がどう変わるかが例示されていました。民法の理解がとても重要であることを再認識させられた事例でした。

令和4年9月15日 東海税理士会

 東海税理士会成年後見専門研究会主催の「税理士が知っておくべき家族信託の利用事例と税務」を受講しました。この日の講師はゆたか税理士法人の税理士・行政書士・家族信託専門士の村井香苗様でした。
 最近の相続案件を通して感じていることは、被相続人の年齢が高く、従って相続人の年齢も高く、次の相続のことが心配になる方が多いということです。
 子のいない家族、子はいるが遠方に住んでいる、子の中に障害者がいるのでその子にだけは特別に手当てしたい、未婚の相続人、兄弟姉妹が遠く離れていて日常の付き合いがない等、この方は今後どうやって相続財産の管理をしていくのがいいのか悩ましい案件が多いです。また、同族会社の経営者の場合、相続財産の主要な部分を会社の株が占めていて後継者はいるがスムーズに株式を相続させられるか、相続人のなかに後継者候補がいない等家族の問題だけでない心配ごとは山積みであったり・・・。税金の問題以前の問題もあります。
 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成29年度厚生科学研究費補助金特別研究事業)によれば、認知症の割合は75歳~79歳で10.9%、80歳~84歳で24.4%、85歳以上では55.5%という報告がされています。そんな場合、成年後見制度が全てを解決できるわけでなく、今から認知症等になって自分で判断できなくなる前にその方を支える方法のひとつとしてあるのが「家族信託制度」ではないでしょうか。自分の今後のサポート、自分亡きあとのスムーズな財産承継について、自分の意思が反映されるのが家族信託制度かと思われます。この日の研修は事業承継を絡めた事案の報告がありました。家族信託制度で全て解決されるわけではなく、他の方法との併用も検討するために、もっと知識の習得をしてより良い解決策を考えていきたいと思った研修でした。

研修報告 令和4年4月ー8月

令和4年8月24日 TKC中部会生涯研修

 この日は、第1部がTKC近畿京滋会副会長 税理士法人りたっくす 代表社員である税理士久乗哲先生による「今こそ職業会計人としての使命を果たす~関与先企業に寄り添う親身の相談相手とは~」というテーマでお話をいただき、第2部では株式会社テクノア代表取締役山﨑耕治様により「IT経営推進企業による製造業様の意識改革・経営人材育成の進め方」というお話を聞きました。
 久乗先生は、TKC会計人として巡回監査により事務所所長及び担当者の洞察力、共感力を高めることができる。それは自利利他の実践であり事務所の情緒的価値を高めていることだと話されました。また、他人への興味が共感力を高め、経営助言の本質である「経営者の意識を変えること」につながること。これは自分自身にも当てはまり、税理士としての自分の意識を変えることにもつながると話されました。事務所の情緒的価値が高ければAIに変わられる恐れはない、ということでした。
 第2部の株式会社テクニアの山﨑社長のお話もまさに自利利他の実践をしてみえる会社だな、という印象を受けました。会社の経営理念は「縁があった企業や人を幸せにする」。業務内容は、中小製造業向けIT生産管理システムの制作、納入、サポートを行うということで、生産管理システムを納入した会社が立派にやっていけるようになるまで伴走支援型コンサルティングを行っているそうです。そのサポートの視点が素晴らしく、令和3年の第11回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞を受賞された会社だな、と思いました。

令和4年8月8日 TKC中部会「書面添付シンポジウム」

 名鉄グランドホテルで行われた「書面添付シンポジウム」に参加しました。私自身は、開業当初より書面添付を申告書の説明書面ととらえていて、法人税のみならず、事業所得者の所得税、不動産等を売却した場合の譲渡所得税、相続税、贈与税においても、申告書だけでは伝えられないことを書面にして提出するというスタンスでいます。
 今回のシンポジウムでは、長年書面添付がついた法人税の申告書を提出している法人の代表者のかた、関与税理士、申告書等の提出を受けている金融機関の3者の方が、それぞれの立場から書面添付について語ってみえました。添付書面は税理士法第33条の2に規定されているものであり、あくまで税務署に提出するものと理解していましたが、透明性を求められる今日にあっては、金融機関に対しても申告内容を説明し、企業活動への理解を助けるものとして有用なのだと感じました。

令和4年7月20日 東海税理士会

 税理士 坪田晶子先生による「新時代の法改正を踏まえた生前贈与と税務」と題する研修会がありました。第1部では「相続・贈与に関する民法と税務」と題して最近改正された民法だけでなく、そもそもの民法から文言を深堀りして気をつけなければならないことを確認していただきました。意思能力、行為能力、未成年者法律行為について確認したあと、贈与契約について様々な観点から確認されました。なかでも、未成年者の財産管理者として、それまで贈与財産を管理していた親は、子が18歳になったら、それまでの贈与財産を計算し、通帳、印鑑、キャッシュカードも渡して、本人が好きに使えるようにしなければ贈与したとは言えない、とわかりやすい説明をされたのが印象的でした。まだこどもだからと渡さないで親や贈与者が管理していれば、それは名義預金になるよ、と。金融機関の支店長さんなどから相談を受けることもあるので、18歳という年齢がひとつのメドになることをお話するのは分かりやすいな、と思いました。

令和4年6月27日 TKC中部会租税判例研究会

 当研究会の会員として毎回2題の事案を研究していますが、今回取り上げられた課題のうち、「第二次納税義務の告知処分の適用の可否―「現存利益」の解釈と射程を中心に」(東京地裁令和2年11月6日判決、東京高裁令和3年12月9日判決)が私の心に残りました。この事案は酒類の製造販売を行う法人の赤字が続き、中小企業再生支援協議会の指導を受けたところ、元代表者等(赤字の責任をとり役員を退位していた)が所有する不動産を売却し、その売却代金でその法人を借入金の一部を保証人として代位弁済し、それによって各金融機関から一定の借入金の債務免除を受けて再生するという再生計画に従ったものでした。そして、元代表者等はその再生計画に盛り込まれている条件のひとつとしてその代位弁済に係る求償権を放棄し、法人は債務の免除を受けました。しかし課税庁は、この元代表者等が滞納国税を有しており、所有不動産を売却して法人の借入金を返済したことにより元代表者等が滞納していた国税について、国税徴収法39条により、受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において第二次納税義務があるとして法人に元代表者等の滞納国税についての第二次納税義務を課したことの取消を求める事案です。
 中小企業庁が定めた「中小企業再生支援協議会事業実施基本要領」に係る支援について相談し、本協議会の指導に従い、元代表者等により個人資産を売却し、代位弁済を受け、求償権の放棄を受けたら、利益があるからその利益を受けた範囲内で元代表者等の滞納国税を納付せよと言われる。それでは再生計画が実行できない。それに対し、裁判所(高裁)の判断は、法人は「債務超過に陥って自力による事業継続が困難な状態にあり、金融機関等による債権放棄等の支援が不可欠の状況にあったといえる。そして、法人の売上債権、棚卸資産、事業譲渡の可能性等を検討し、この法人が破産した場合に予想される各求償債権の回収額が0円を超えるとは認められない」として、現に存する利益はないと判断し、国税徴収法39慈雨の要件を満たすものではないとして、課税庁の請求を退けたものです。
 今後ゼロゼロ融資の返済が始まって再生支援計画の支援をうけなければならない企業が出てきた場合に、こんな事案が増えるのではないかと危惧しています。この理論の立て付けをよく理解しておきたいと思いました。

令和4年5月19日 東海税理士会成年後見専門研究会

 当成年後見研究会では、成年後見制度だけでは守ってあげたい方の財産の保全ができないとして民事信託の勉強をしています。講師は特定行政書士の松尾陽子先生。タイトルは「親愛信託(家族信託)の実務~親愛信託の活用例・財産ごと依頼者別の提案方法~」でした。信託は相続税を回避するものではなく、信託財産をみなし相続財産(あるいは贈与財産)として相続税(贈与税)が課税されるので、相続税対策ではありませんが、財産の所有者が途中で意思能力を喪失した場合に備える、財産の承継について何代にもわたって指定できるといった信託の良さを活用することで、本人(守ってあげたい方)の望みをかなえようというものです。
 ただし、オールマイティではないので、できないこともよく認識した上で、オーダーメイドの信託契約を提案していくことになります。依頼者及び依頼者の親族の方々の心配を取り除いていくという方向でしっかり本音を引き出して差し上げることが大切だと感じました。

令和4年4月20日 租税訴訟学会研究会

 租税訴訟学会研究会は東京本部で行われているのですが、オンデマンドでも参加できるようになり、直近の事案についての報告が受けられるようになりました。今回は「代償分割の場合の調整計算と小規模宅地の適用について」という事案でした。発表者の弁護士坂田真吾先生が実際の事案においてどう考えて、解決したか、というお話でした。
 問題をシンプルにすると、相続財産は不動産1個(相続税評価額8000万円、時価1億円)でした。それを相続人2人で平等に分けたい。どう考えるか。相続人Aは不動産を取得し、代償分割で不動産の価額の半額を相続人Bに渡す。ただし、この不動産はAが取得することで小規模宅地の評価減が適用できるというものでした。当初は未分割で相続税の申告をし、遺産分割協議がまとまらず遺産分割審判を受けました。相続税評価額で按分せよ、というものでした。
 しかし、それでは相続税額が2分されない不公平な結果となり、Bの代理人である弁護士は2人の間で小規模宅地の評価減適用後の価額で2分して代償金額を決めた合意書を作成し、それに基づいて更正請求(修正申告)したところ、課税庁は合意書があったとしても遺産分割審判に従っていないとして更正の請求に対する理由なき旨の通知処分を受け、それに対して行った審査請求の案件でした。
 不動産は相続時の相続税評価額で相続税の算定の基礎としますが、相続税評価額はいわゆる時価(不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額)の8掛けとされています。しかも、小規模宅地の評価減は誰がその不動産を取得するかによって適用ができるかどうかも変わります。また、実際には財産がひとつということはなく、組み合わせによって様々な考慮事項があり複雑です。しかし、今回の発表者の方がいろいろ考えて解決されたその考え方はとても勉強になりました。

研修報告 令和4年1月ー3月

令和4年3月24日 TKC中部会 生涯研修

 今回は、大阪学院大学法学部教授の八ツ尾順一氏をお招きして「交際費課税とフリンジ・ベネフィット」と「重加算税の法理と隠蔽・仮装の事実認定」という2つの課題についてお話をしていただきました。2つとも考えさせられる課題です。交際費の本質は、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」をいうとされています。しかし、自然人ではない法人は飲食等を行うことはできないので、接待する側(役員、従業員)、接待される側(役員、従業員)のそれぞれの個人にその支出の直接的な効果は帰属することになります。ここに法人の役員、従業員に対する「フリンジ・ベネフィット(経済的利益)課税」という議論(所得税課税をすることの可否)が生じるということでした。今まで関与先の交際費の支出を見ても、本当に法人のための支出か、ということは考えたことはありましたが、個人に課税するという発想はなかったので、新鮮でした。
 また、第2のテーマでは悪質な納税者に「隠蔽・仮装」の事実があれば重加算税が課されるのは仕方ないくらいにしか考えていませんでしたが、何を「隠蔽・仮装」ととらえるかの課税庁の論理に驚くようなこともあり、とんでもない事実認定をされないよう日頃からの証拠の積み上げが大切だと感じました。考えさせられる研修でした。

令和4年2月7日 TKC全国会 租税判例研究会         令和4年2月14日 TKC中部会 租税判例研究会

 今回の租税判例研究会は同志社大学法学部教授の田中治先生の指導のもとで開催され、世話役代理として全国会の租税判例研究会に参加し、同じ課題で地域会の租税判例研究会に世話役として参加しました。
 取り扱った課題は、第1事案は「相続税における遺産分割後の更正の請求の許容範囲」(最高裁令和3年6月24日判決)であり、第2事案は「総勘定元帳への交際費記載と重加算税賦課の当否」(東京地裁令和2年3月26日判決)でした。
 私の関心を引いたのは第1事案です。この事案は前に相続財産となった株式の評価について争いがありました。平成16年に開始した相続の株式の評価についての判断が下りたのが東京高裁平成25年2月28日です。これにより財産評価通達の変更がありました。この時の裁判の判断を基にして平成26年1月になされた遺産分割協議が成立し、前判決の結果に基づき株式の評価を行い更正の請求をしたところ、それは認められないとして受けた課税処分について争ったものです。納税申告書を提出した者等が、その申告等に係る税額等が過大である場合にその減額を求めることを更正の請求といい、国税通則法23条に定められており、現在は法定申告期限の翌日から5年以内(平成23年12月1日以前に法定申告期限が到来するものについては1年以内)ならすることができます。しかし、今回の事案では時間が経過しすぎていました。そして、一方、未分割の財産について分割協議が調ったとして更正の請求をする場合には相続税法23条により、遺産分割により各相続人の取得財産が変動したという相続税特有の後発的事由が生じた場合に限りできるものであるから、株式の評価額の変更をも含むことはできないと判断されました。
 今回の事案を通して、どうしたら納税者が救われるかと考えたとき、当初の申告において、よく考えて信じた方法で財産評価等の判断をすることの大切さを改めて感じました。

令和4年1月19日 TKC全国会 資産対策研究会

 今回は10月から始まった「税理士のための相続税Q&A 土地等の評価」の第2回でした。内容は「路線価方式と画地調整」及び「倍率方式」でした。
 土地というのは2つと同じ形のものはなく、参考書にあるような形をした土地もなく、評価対象地のもっている事情も様々です。何回事案に遭遇しても、毎回悩みが発生するというのが現実です。路線価評価においては地形のより正確な把握に努めるしかないのかなと思います。倍率地域にあっては、評価が簡単なように見えますが、実際は悩むことが多いです。固定資産税を課税する行政によって、登記地目と現況の違いをどう認識し、どう評価に反映しているかを確認しなければなりません。雑種地などはその典型でしょうか?安易に評価できる土地はないというのが実感です。

研修報告

令和3年12月10日 東海税理士会 成年後見専門研究会

 当研究会では、最近よく聞くようになった家族信託について連続した研修を開催してくれています。今回も行政書士の松尾陽子先生から「家族信託の依頼者別の提案方法」というテーマで研修をしていただきました。
 家族信託といっても、金融機関等が提案してくるのは、あくまでも当金融機関が受託者となる商事信託であり、民事信託を家族で行うから家族信託と呼んでいるのとは違いがあります。(実際には民事信託の預金の引き受け手としての金融機関は少ないのが現状です。)民事信託ですから、本当に一人一人のニーズに合わせた信託契約をすることができるので、それぞれの委託者の事情に合わせた最適な信託契約はどんなものなのかを当事者や家族の方々とよく相談することの大切さを感じていますし、最近の傾向として、長生きリスクが高まり、近親者がみえない方をどう救うかというのも課題になっています。今後のニーズは高いと思うので、よく勉強して良い提案ができるようになりたいです。

令和3年11月16日 TKC全国会 資産対策研究会

 毎年10月から翌年9月までを単位として資産税関連の研修が行われていますが、今年度は「土地の評価」を基本から複雑な事案までを個別事例に則して学ぶことになりました。第1回の今回は「土地評価の基本」でした。地目認定と評価単位の考え方を確認しました。1筆の土地の利用方法が複数に分かれている場合など、また、路線価図上の地区表示記号の解説など、本に書いてないことをいろいろ注意していただけたのが有意義でした。分かっているつもり、というのが一番怖いので、真摯に取り組みたいと思います。

令和3年10月12日 TKC中部会 名古屋研修所 緊急特別研修会

 名古屋学院大学名誉教授の岸田賢次先生より「令和3年度電子帳簿保存法の改正について」と題して、令和4年1月1日から施行される「電子取引データの電子保存」についてお話を伺った。この時点では宥恕規定が出されていなかったので関与先指導ができる最終段階という認識で受講者が大変多かったと後で聞きました。
 それは、今まで電子取引であってもダウンロードして紙で保存していればよかったものが、紙での保存は保存要件を満たさない、電子取引を後での検索が容易な方法で保存することとなったものです。何が電子取引かの洗い出し、取扱い規定への記載、具体的な保存方法の確認など、すべきことは満載でした。
 私もこの研修で緊急性を認識し、11月の監査時にはもれなく関与先にお伝えし、12月には各関与先が「取り扱い事務規定」を作成していることを確認しました。

令和3年9月13日 TKC中部会 生涯研修

 太田達也先生による「貸倒損失の税務と留意点」という講義を聞きました。当日の内容は1.貸倒損失に係る税務の基本的考え方、2.貸倒損失の計上、3.個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の計上というように3つに分かれていました。
 法人税法33条1項において金銭債権の評価損の計上が原則として禁止されていることの意味は部分貸倒という考え方がないことを意味している。その取扱いは法人税法基本通達により、1.法律上の貸倒れ(法基通9-6-1)、2.事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)、3.形式上の貸倒れ(法基通9-6-3)にある。1法律上の貸倒れはその事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金算入するので、その期に損金算入することを逃したら更正の請求(5年以内)による。また、破産手続きが法人と個人と異なることから個人の場合には注意を要すること、また法人であっても破産開始決定だけ受けておいてほったらかしの案件が多いから、破産管財人に対する情報収集は必要、債務者の債務超過状態が相当期間継続し、弁済不能のため、書面で債務免除を通知することで貸倒れ処理する場合もあること、回収努力をどのようにしたかの証拠は残しておくべきであることなどが話された。また、2においては①「その全額が回収が明らかになった場合には」②「その明らかになった事業年度において」という2つの点が問題となる。①の立証責任は貸倒処理する側にあるので、証拠の収集は重要であるし、②の損金経理時期についても慎重な判断が必要である。3についても回収の努力の記録や、売掛金と貸付金では取扱いが異なること、条件を満たした期に損金経理せず、翌期以降に処理した場合には利益操作が問われるものと思われるので、損金経理の時期を誤らないことは重要である。コロナ禍にあって廃業する法人が増えることが予想されているが、法基通9-4-6の2、9-4-6の3により、取引先への債務免除等や、低利又は無利息貸付けが寄付金とならない取扱いが表示されている。これらを使う場合にも要件の確認が大切である。また、3の個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰り入れについて法令96条4項1号から4号のケースの確認をした。
 コロナ対策で借入をした企業の返済時期がきたときに返済できないケースが増えるだろうと言われています。これらの要件の確認をして関与先へのアドバイスをしっかりしたいと思います。

令和3年8月23日 TKC中部会 生涯研修

 (株)アテーナソリュウーション 代表取締役、一般社団法人 小規模企業経営支援協会 代表理事、一般社団法人 小規模事業者革命50㎝倶楽部 代表理事という肩書を持つ立石裕明様にTKC中部会にお越しいただいてお話を伺いました。
 テーマは「事業再構築補助金について~コロナ禍で、経産官僚と議論した事とその背景~」です。経済産業省、独立行政法人中小企業基盤整備機構などで様々な委員やアドバイザーについてみえて、小規模事業者の現場と官僚の橋渡しをしてみえるのだな、と感じました。その元にあるのは、ご自身が淡路島の温泉旅館の3代目としてお生まれになり、事業承継後に阪神淡路大震災に会い、事業再生を実体験してみえること。事業拡大、株式公開を目指して法人設立するも倒産。これらの経験をもとに小規模企業を支援するための発信、講演を続ける中で先に示したような役職につかれることになったようです。
 なかでも「経営計画を書きましょう」国民運動をしているというお話が印象的でした。補助金を得るためではない。計画を経営者自身が書いたことが大切。補助金申請は税金を使うのだから、きっちり書くのは当然。応募件数が多いのだから、審査員の立場に立って読み返してみて、求められていることの回答としてわかりやすく書く。etc。「事業再構築とは、今後生き残っていくための、人生の再構築」と言われた言葉は重いと感じました。

日税研理論ゼミのオンライン配信(7月15日から配信開始)

 谷口勢津夫先生による「税法における経済的合理性基準の意義―行為計算否認不当性要件をめぐる近時の判例の検討―」という講義を受講しました。
 谷口先生の考え方のベースには租税国家における「税法の世界」は、「税(法)は私的経済活動の上に建てられた『家』のようなものである。」をグランドデザインとして描くことができる、ということがあります。税法はその基礎にある私的経済活動の論理(経済的合理性)を尊重しなければならないが、近時は、それを意識的・政策的に課税要件の中に取り込む立法(経済的合理性の内在化立法)も増えてきている(課税要件法の「変質」)。その代表例が組織再編税制である。と前置きされて、行為計算否認規定の不当性要件をめぐる近時の判例の検討を通じて、法人税法132条については税法外在的経済合理性基準の意義を、同132条の2については税法内在的経済合理性基準の意義を「個別分野別不当性要件の統一的解釈」によって明らかにしていきたい、と述べられています。
 講義の中で「IBM事件(東京高裁平成27年3月25日判決)」、「ユニバーサルミュージック事件(東京高裁令和2年6月24日判決)」、「ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日判決)」、「TPR事件(東京高裁令和元年12月11日判決)」を取り上げて検討されました。いずれも組織再編に係る事案ながら法人税法132条で課税処分された事案と同法132条の2で課税処分された事案があります。これらの事件が課税庁はどこに着目し、どう判断したか、その見方、考え方は変わっているのか、変わっていないのかを判断して今後の動向を考えることが必要になります。
 税法は租税法律主義に則っており、その実現のためには予測可能性と法的安定性が保障されなければなりません。しかし、事案の事情は個別的であり、今どきの事情を反映しています。ひとつひとつの事案は本当に複雑で理解はむつかしいのですが、税法の文言を丁寧に読み、ひとつひとつ当てはめていくことの大切さを感じています。『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの』の理解を深めなければならないと痛感しています。

東海税理士会マルチメディア研修(6月1日より配信開始)

 金井恵美子先生による「インボイス制度と仕入れ税額控除の調整」と題する研修を受講しました。
 当研修は第1部と第2部に分かれており、第1部が「日本型インボイス制度(適格請求書等保存方式)」、第2部が「仕入れ税額控除の調整」と題してお話されました。
 第1部では、平成元年4月1日に始まった消費税が帳簿方式から平成6年度税制改正により帳簿の保存に加え、前段階の事業者が発行した請求書等の保存を要件とする請求書等保存方式に改められたこと、平成28年度税制改正で、軽減税率の導入と、それに伴うインボイス制度への移行が決定したこと、軽減税率が導入された令和元年10月以降は、単一税率制度下の請求書等保存方式と区別して、「区分記載請求書等保存方式」が始まったこと、令和5年10月1日に開始されるインボイス制度が「適格請求書等保存方式」と呼ばれるものだという変遷を確認されました。
 今回のインボイス制度では、登録事業者が発行したインボイスの保存が仕入税額控除の要件となります。売手には、適正なインボイスの交付が求められ、買手は、取引ごとに確実にインボイスの交付を受け、これを保存することで仕入税額控除が行えることとなります。
 そもそもインボイスを発行できるのはインボイス発行事業者として登録した事業者のみです。登録申請の受付は令和3年10月1日から令和5年3月31日で、この期間に登録申請した事業者は令和5年10月1日からインボイスを発行できます。現在消費税の課税事業者であるか免税事業者であるかは問いません。現在免税事業者であり、令和5年10月1日時点で免税事業者である者は経過措置により課税事業者の選択届出書の提出は不要で、登録申請のみでインボイス登録事業者となります。免税事業者である関与先が登録申請を行ったほうがよいのかどうか、関与先と一緒に考えることが大切だと思いました。
 第2部では、仕入税額控除の調整についてお話がありました。特に入居中の中古マンションを転売する目的で購入する業者の課税仕入れの用途区分についての争いに対する裁判所の判断が割れていた事案の解決策として行われた税制改正について解説されました。まず、令和2年4月1日以降は「人の居住の用に供する家屋」の判断について「当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からもて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限る」とされたこと。令和2年10月1日以降に行う居住用建物に係る課税仕入れ等の税額には、仕入税額控除の規定は適用されないこととなったこと。ただし、第三年度の課税期間の末日において、その居住用田引退建物を有しており、かつ、その居住用建物の全部又は一部を課税賃貸用に供したとき、あるいは仕入れ等の日から第三年度の課税期間の末日までに譲渡した場合には、仕入税額控除の調整が受けられることとなったこと。消費税の課税逃れの封じ込めのための改正はどこまで続くのでしょうか。簡素・公平を旨とするなら、消費税法の抜本的な見直しが必要なのではないでしょうか。

令和3年5月10日 TKC中部会

 税理士 畑中孝介氏をお招きして「事業承継への取り組み事例~特例事業承継・M&A~」というテーマでお話いただきました。講師は税理士事務所のほか、ホールディング会社のほか、コンサルタント会社など3社を経営してみえますが、それも事業承継案件で会社分割・合併の依頼がくるようになり、まずは自分のところでやってみて、手法を理解しようというところから始めたそうです。
 後継者不在の解決策としてM&Aの必要性が増すと考え、M&A新規事業への取り組みによる事務所の成長戦略を描いて取り組んでみえることで、紹介案件も増えてみえるそうです。
 M&Aにおける職業会計人の役割として、①創業者の思いの確認、②株主間契約に盛り込む事項の確認、③買収時のリスクの把握、④価格の算定等が挙げられています。
 講師が取り組んだ具体例でお話いただいたことで、いろいろな注意事項に気がつくことができました。
 会社を売却するか事業を売却するかによっても注意することが変わります。創業者にとって一生に一度の大事業なので、創業者の思いに寄り添って、創業者が「良かった」と思えるようにクロージングして差し上げたいと思いました。

令和3年4月13日 TKC中部会 生涯研修

 名古屋学院大学大学院客員教授でもあるTKC中部会会員の竹本守邦先生に「否認を受けない取引相場のない株式の売買価額ー税目毎の課税関係の整理と注目すべき最新判例を中心にー」と題して講演していただきました。
 「取引相場のない株式」に時価があるのかという問題もあるが、相続や贈与といった無償移転に対しては財産評価基本通達を使うことになっており、個人株主や法人株主が譲渡する場合には、別の各基本通達(所基通、法基通)の規定を使うことになっています。そして、財産評価通達による評価方法には、いわゆる「類似業種比準方式」(原則)と「配当還元方式」(特例)があり、いかなる場合にどちらの評価方法によるか、ということが問題となります。今回取り上げられた令和2年3月24日最高裁第二小法廷判決(平成30年(行ヒ)第422号所得税更正処分取消等請求事件)は、個人が法人に取引相場のない株式を譲渡したのであるが、その株式発行会社は「同族株主のいない会社」であり、所基通59-6の(1)が直接規定していないから、同通達の正確な分離解釈をしなければならないという問題がありました。最高裁では、「当該譲渡における譲受人の会社への支配力の程度は、譲渡人の下に生じている増加益の額に影響を及ぼすものではないのであって、前記の譲渡所得に対する課税の趣旨に照らせば、譲渡人の会社への支配力の程度に応じた評価方法を用いるべき」として「所基通59-6は、取引相場のない株式の評価につき、少数株主に該当するか否かの判断の前提となる「同族株主」に該当するかどうかは株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること等を条件に、評価通達の例により算定した価額とする旨を定めている」とした。
 当判決には、それに付け加えて2人の裁判官の補足意見がついていた。それによれば、「租税法律主義は課税要件明確主義も内容とするものであり、通達の読替えを行うという方法は国民にとってわかりにくいことは否定できず、より理解しやすい仕組みへの改善されることが望ましい」とされた。そして、「通達は、課税庁の公的見解の表示ではあっても法規命令ではない。通達に従ったとされる取扱いが関連法令に適合するものであるか否か、すなわち適法であるか否かの判断においては、そのような取扱いをすべきことが関連法令の解釈によって導かれるか否かが判断されなければばらない」とされた。
 しかし、問題はその先にあった。この最高裁判決を受けて令和2年8月28日『所得税基本通達の制定について』の一部改正について」により行った所基通59-6の改正が行われた。そして、令和2年9月30日に資産課税情報第22号によりその趣旨説明が出た。それによれば、改正された当該通達の説明にとどまらず、その場合における株式評価について、より厳しい条件が付加されていたことです。

 今後、事業承継の場面等での個人―法人間の株式譲渡では要注意です。

令和3年3月13日 一般財団法人あんしん財団WEB講演会

 これは3月11日から17日の期間のみ配信された坂本光司氏による「社員、顧客、社会から選ばれ続ける会社とは」第5章についてのお話が配信されたものを受講しました。坂本先生は、8000社以上の会社の訪問調査、アドバイスの実績があり、このタイトルの書籍が出ています。本も読みましたが、直接お話を聞きたいと思い、WEB研修ではありますが、受講しました。
 心に残ったお話は「正しくある」ことについての13の指針と「人の幸せとは働くことをおいて得ることはできない」というものでした。長く続く企業は経営者、ひいては働く人たちが「正しくあること」を追求しているということでした。結局はそういうことなんだな、と納得しました。また、人の幸せはどこにあるか、坂本先生のまとめは①人に必要とされること、②人に褒められること、③人の役にたつこと、④人に愛されることの4点でした。これは仕事だけでなく、子育てすることなど生きていくすべてに言えることだと思いました。
 忙しい確定申告時期ではありましたが、心の栄養になるお話でした。

令和3年2月8日 TKC中部会 生涯研修

 この日は、税理士の金井恵美子氏を中部会に来ていただいて、ライブ配信により研修を行ってもらいました。今回のテーマは「消費税実務~令和2年度の改正及びコロナウイルス感染症拡大対応と被災者救済措置~」でした。
 お話の内容は、大きく分けて1.令和2年度の消費税の改正、2.令和3年度の消費税の改正、そして3.新型コロナ税特法の特例と災害特例の3つでした。
 1については、居住用賃貸建物の取得等に係る仕入れ税額控除の制限について一番関心がありました。ご存知のように居住用賃貸建物を建設して仕入れ税額控除を受けるというスキームは税制改正と「いたちごっこ」のように考えだされ実行されてきた経緯があります。今回この還付スキーム封じ込めの決定版として、消費税が非課税となる住宅の貸付けの範囲が見直され、全額控除又は一括控除となる場合であっても、個別対応方式と同様に、居住用賃貸建物の仕入れ等を控除の対象から除外する制度が創設されました。令和2年4月1日以後の貸付に係る契約において明らかでなくてもその貸付け等の状況からみて人の居住の用に供すれていることが明らかな場合には、これを住宅の貸付けに含むものとされました。そして、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外で、棚卸資産及び調整対象固定資産のうち、取得価額あるいは自己建設価額が1000万円以上のものを高額特定資産あるいは調整対象自己建設高額資産と呼んで、貸付け形態の変化により課税賃貸割合が当初の割合から変更があった場合、居住用賃貸建物の仕入れ等の日から3年を経過する日の属する課税期間において、消費税の調整をすることになりました。
 2については、消費税転嫁対策特別措置法が3月31日に終了し、不特定多数の消費者に向けて商品の販売・サービスを行うものは4月1日から総額表示をしなければならないことになりました。消費者にとってはわかりやすい制度になると思います。
 3については、「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている場合に利用することができる特例」についての確認ができました。対象となる事業者は、新型コロナウイルス感染症等の影響により、令和2年2月1日から令和3年1月31日までの間のうち任意の連続した1か月以上の期間に、事業としての収入の著しい減少(前年同時期に比べておおむね50%以上の減少)があったものです。ですから、2月はそれを確認する最後のチャンスでした。対象となる関与先にもれがないことを確認できました。新しい、しかも臨時の措置ですから慎重に確認できてよかったです。

令和3年1月12日 TKC全国会資産対策研究会

 令和2年11月と今回の2回で「配偶者居住権のポイントと相続事例から見る税務と法務の接点等の検討」というテーマで研修を受けました。配偶者居住権とは、平成30年7月に公布された「民法及び家事事件手続き法の一部を改正する法律」により制定された、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利をいいます。そして、令和2年4月1日からの相続で設定することができます。まだ始まったばかりの制度ですので、具体的な争いがあるわけではありませんが、今までの争いを通して配偶者のそれまでの家に住み続ける権利を守ってあげよう、それまで住んでいた土地、建物を相続するよりも少ない評価額の財産権を取得することで、現金等の取得額が増えるようにして、のこされた配偶者の生活を守るという視点から創設されています。
 そこで、今回は税法において配偶者居住権の取り扱い、評価額の考え方、最後までその家に住み続けることができなくて、途中で出る(老人ホームに入居する、途中で家を売るなど)場合にはどうなるのかなど、想定される問題を挙げながら検討しました。私は配偶者居住権の設定された敷地について、小規模宅地の評価減が使えるなら、相続財産の全体の価額が低くなることで配偶者だけでなくその他の相続人にとってもメリットがあると思いました。この権利は遺贈、死因贈与あるいは遺産分割協議により設定されるので、遺言書がない場合には、遺産分割協議での設定となり、遺産分割が円満にできないと使えない場合があり、結局日ごろの人間関係がものを言うと思いました。

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東海税理士会所属
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