HP研修報告 R7.1-R7.6

6月9日 TKC中部会生涯研修

   今回の生涯研修は先月に引き続き葵町公証役場公証人石﨑功二氏においでいただいて「公正証書作成の実務第2回」を講演していただきました。
   当日の研修は、1.任意後見契約と公正証書、2.民事信託(家族信託)との比較、3.まとめ、4.質疑応答という内容でした。4の質疑応答は、前回の研修終了後にアンケートに記載された質問のなかから、重複しているもの、公証人にお尋ねする内容ではないものを除き、会員からの質問に対して丁寧にお答えを用意していただいたものでした。質問の多さから会員の関心の高い内容であることがうかがわれました。
   今回のテーマである任意後見契約は、「任意後見契約に関する法律」により規定されているものであり、同法3条により公正証書によらなければならないものとされています。任意後見制度は、成年後見制度と異なり本人が事理弁識能力のある間に自分の後見人となる者を指定しておき、本人の事理弁識能力が不十分になった時に自分に代わって本人の法律行為をしてもらうというものです。「本人の事理弁識能力が不十分になったのではないか」と本人、配偶者、一定の親族、任意後見受任者のいずれかが思った時に家庭裁判所に任意後見監督人の選任を請求し、家庭裁判所がその者を選任した時に効力を発する仕組みになっています。また、公正証書を作成した段階で公証人が法務局に嘱託することにより代理権目録の内容とともに登記されます。本人を守るための制度であることが良くわかります。
   また、この制度との比較の対象として民事信託(家族信託)についても解説がありました。民事信託契約も登記されます。任意後見と民事信託の違いは、1.信託の場合には受託者が自己の名で法律行為をするのに対し、任意後見は任意後見人が委託者の代理人とことして法律行為を行うこと、2.信託の受託者が扱う財産は受託財産に限定されるが、任意後見人は委託者本人の財産の全部が対象となること、3.任意後見人の行った訪ロ一行為による相手方は、委託者の財産全部を強制執行の対象にできるが、信託は原則として信託財産を対象とするなどがあります。
   私たち税理士は、関与先さんから相談を受けた際に、本人を守るために本人の意思をよく確認し、どの制度を使うことが本人のためになるかを本人と話をする必要があるし、第1回の研修で触れられた、遺言、死後事務委任、尊厳死宣言などの公正証書とどう組み合わせて切れ目なく本人を守るかを考える必要があると考えます。また、いつも身近にいる存在だからこそ頼られるのだと思います。問題によっては弁護士と繋ぐことが必要となるかもしれません。将来の税金のトラブルを防ぐという視点も必要となるでしょう。自己研鑽は欠かせません。

5月13日 TKC全国会資産対策研究会

 当日のテーマは「税制改正、税理士賠償・懲戒処分、税務調査、失敗事例~資産税を中心に~」でした。第1部「令和7年度税制改正~資産税を中心に~」(税理士 村田裕人先生)、第2部「税理士の危機管理!損害賠償と懲戒処分」のリスクを回避するために」(税理士 坪多晶子先生、村田顕吉朗先生、鎌田裕次郎先生)、第3部「相続税の税務調査で判明した失敗!あなたも陥るかもしれない危険な落とし穴」(税理士 今仲清先生、坪多晶子先生、島村仁先生、田中英雄先生、稲垣創平先生)、第4部「成功へのヒントを見逃すな!失敗事例から学ぶ資産税業務」(税理士 坪多晶子先生、稲垣創平先生、村田顕吉朗先生、鎌田裕次郎先生)という構成でした。第2部から第4部までの判例を含めた先人の失敗から学ぶことがたくさんありました。

5月8日 TKC中部会生涯研修

 この日は葵町公証役場の公証人の石﨑功二様においでいただき、公証人の業務について、お話を伺いました。公証人の業務には、① 公正証書の作成、② 私署証書の認証、③ 定款認証、④ 確定日付の付与があるということでしたが、①についてメインにお話され、特に「遺言公正証書」について時間を割いていただきました。他にも「任意後見契約」「死後事務委任」「尊厳死宣言」にも触れていただきました。
 公正証書を作成する意義は、法律行為の適法性・有効性のチェック(①内容が確定しているか、②内容が実現可能であるか、③内容が適法であるか、④内容に社会的妥当性があるか、公序良俗違反の内容は無効)と紛争防止の観点から、①証書の内容が後の紛争の可能性を残すものになっていないか、②証書の文章が曖昧又は多義的な内容になっていないかをチェックしてもらえます。注意事項として言われたことの一つが「どういう内容の公正証書にしたいかを決めて伝える」ということでした。だから、相談者に有利な内容にするのはどうしたらいいかといったアドバイスはできないこと、相談者に有利でも他者に不利な内容となることも少なくなく、公証人の立場上、相談者側のみに寄り添うことは難しいということ、有利・不利を勘案して方策を選択」することで内容を確定するには、依頼者の意向に沿って業務を行うことが可能な税理士、弁護士、司法書士、行政書士等への相談を勧めているということでした。
 公正証書作成前に、私たち税理士がどこまで依頼者の方と深い相談をして、本人のために良い方法を決めて公証人の方と相談することが大切だと思いました。相談者として本人とともに税理士もすることができるので、後に問題を残さない文言にすることが可能でなないでしょうか?必要性を感じました。

4月17日 TKC中部会 生涯研修

 M&A関連研修がありました。第1部は日本政策金融公庫の事業承継支援窓口より紹介を受け従業員8名の会社をM&Aにより取得した会社の社長さんから、M&Aをしようと思った動機、具体的な行動、現在の状況等をお話いただき、その後当公庫が行っている事業承継支援についてお話をいただきました。そして、第2部では公認会計士・税理士の髙木融氏より「粉飾事例にみる中小企業 M&Aリスクと対応」と題してお話をいただきました。
 第1部の社長さんはE-Crane合同会社の代表杉原智之氏でした。社長の思いは後継者難に悩む中小企業をM&Aによって元気にしたいということであり、買収価格がそんなに高いわけではない中小企業ということで譲渡価格に合う専門家がみつからなかったため、行きついたところが日本政策金融公庫だったということでした。当公庫はマッチング相手を探してくれるところまでを手伝ってくれるので、その後の交渉は自分でします。だから、仲介手数料が無料なのです。相手企業の見極めは自分で調査し、金額を交渉し、株式譲渡契約書は弁護士に依頼したほかは、友人知人のツテを使って安上がりに。ただし、もし万が一の隠れた債務への対処と引継ぎを兼ねて前社長には顧問として1年残ってもらったことと、株式購入価格の支払いを分割払いにしたことでリスク回避をしたということでした。税理士への期待として、聞いたら教えてくれるというのではなく、気づきを先に発信して欲しいということでした。
 日本政策金融公庫からは事業承継支援室の大沼真樹氏より、当公庫の事業承継支援事業についてお話を聞きました。当公庫では、情報面の支援と資金面の支援を行っています。情報面の支援としては、後継者がいる企業については「つなぐノート」を提供し課題に応じた専門家への取次等により支援している、後継者がいない企業については、事業承継マッチング支援の案内をするとともに「ゆずるノート」を提供し、第三者承継に関する基礎知識の習得や事業の強み、課題の見える化、譲渡方針の策定などを行っていくということでした。当公庫の支援の特徴は、小規模事業者の方の利用が中心、相手探しに専門担当者がサポート、希望条件が合致する相手先を紹介、紹介までの業務を無料で行う等です。それにより、今回ご紹介した規模の会社のM&Aができるということでした。法人だけでなく、個人事業者の希望にも対応しています。
 第2部では、髙木氏より、中小企業のM&Aは規模が小さくコストがかけられないので十分な調査が行われないこともある、表面財務数値による価格判断はリスクが高いので、財務分析を切り口にヒアリングを行い実態財務数値を把握することがポイントとなるということで、いくつものポイントを実例を交えてお話いただき、とても参考になりました。

3月27日 TKC中部会 生涯研修

 この日は税理士の笹岡宏保先生に「さまざまな土地評価の留意点(通達や問答集だけでは理解できない留意事項を確認する)」と題して講演していただきました。研修内容は2つの論点で行われました。1.地積規模の大きな宅地の評価、2.無道路地の評価でした。
 1については、二つの国税不服審判所裁決事例をもとに検討されています。「地積規模の大きな宅地の評価」は評価通達20-2の定めがあり、極めて形式的です。これは、かつての「広大地」の評価では、戸建住宅用地といえるかどうかで争いが多かったこともあり、形式的に判断できるようになって良かったと思いました。にもかかわらず、なぜ争いが生じるのかというと、市街化調整区域に存する都市計画法10号又は11号に該当する区域にあっては対象となるが、形状は類似していてもその他の区域は対象外であること、コンパクトシティーを目指している行政が条例によって対象外区域に住宅の建築を許している現状があるなど、形式的判断が有効とは言い難い地域があることが指摘されていました。
 そしてもうひとつ指摘されていたのは、国税不服審判所裁決事例令和6年3月6日大裁(諸)令5-36によれば、審判所が課税庁の主張を入れて「「地積規模の大きな宅地」の適用対象を「戸建住宅地としての分割分譲が法的に可能であり、かつ、戸建住宅用地として利用されるのが標準的である地域に所在する宅地」の範囲を定めているものであるとして、評価通達20-2にない文言が足されていることです。今後争いが生じるのではないかと懸念されていました。
 2については、
 こちらも裁決事例から2つの事案が取られていました。
 ひとつは、通路開設費用の価格算定の問題で、2つの道路に面している場合には通常利用している道路ではなく、評価額の低くなるほうを採用するのが、経済的合理性に叶うと判断されたもの、一方で路線価のついている道路までの最短距離の通路を想定すると他人の住んでいる建物の敷地の上を通ることになるので課税庁の主張は退けられて、他人の住んでいる土地の外側を迂回して道路に出るものと想定すべきとされたものでした。現実にはどこにも通路を想定できない土地の評価をしなければならないことがあり、まだ解決できないことはあるように思います。
 もうひとつの問題は市街化区域内の畑で農道に接しているだけの土地で、道路からあまりに離れていて、市街化区域内にあっても現実的には建物は建たない土地の評価でした。農業をする相続人にしか使い道はなく、値段がついてもそれだけの価値がない土地が今後は増えるのではないかと思います。

2月14日 TKC中部会 租税判例研究会

 当日の課題は2問です。第1事案は「障害者福祉サービスを利用して生産活動に従事した者に支払った工賃の仕入税額控除該当性」(名古屋地裁令和6年7月18日判決)、第2事案は「本堂への参道として用いられている商業ビルの敷地の一部の境内地該当性(御堂筋事件)」(大阪地裁令和4年11月17日判決、大阪高裁令和5年6月29日判決)でした。
 第1事案のそもそもの問題点は、障害者が生産活動に従事する場合の障害者総合支援法に規定する「障害福祉サービス事業」(5①)に規定されている「就労継続支援」のうち6の10の1号に規定する継続就労支援A型と同条2号に規定する就労継続支援B型で「賃金」と「工賃」の違いがあり、そこに消費税法が絡んで、工賃が福祉事業者にとって課税仕入れに該当するかどうかが争われています。(当研究会時点ではわかっていませんでしたが、令和7年1月30日に名古屋高裁の判断が出ており、納税者の主張は認められず控訴は棄却されました。)
 裁判所の判断は、障害者福祉支援法に基づく工賃の支払いは生産活動による成果物の販売代金に転嫁可能な程度に生産活動への従事と結びついているとはいえないから、消費税法30条1項に規定する課税仕入れにかかる支払い対価に該当すると認めることはできないから、課税仕入れ控除はできないとされました。
 第2事案は大阪御堂筋にある南御堂への参道は道路に面した商業ビルの一部の空間の下を通らないと南御堂(本堂)に行けないという実態において、そこが参道であり境内地に該当するという宗教法人と、商業ビルの一部であり境内地とはいえないからという理由で固定資産税を課した大阪市との争いです。地裁では1.「本件対象地が地方税法348条2項3号の「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人第3条に規定する…境内地」に該当するか否か、2.本件対象地のうち、本件建物が存在する部分(本件上空建物部分)と参道として用いられている部分(本件空洞部分及び本件建物不存在区画)を割合的に区分し、参道として用いられている部分を非課税とすべきか否か、が争われました。そして、どちらも否定されました。高裁では1は争わず2のうちの参道部分の非課税だけが争点となりました。高裁では丁寧な事実認定を行い商業ビルの空洞部分が参道として境内地にあたると判断し、その敷地面積ではなくビル全体のなかの空洞部分の容積率面積で評価した割合部分を非課税とすると判断されました。その考え方が新しいと評価されています。

日本税理士協同組合連合会セミナー「オンデマンド研修」(配信期間1月17日~2月6日)を1月19日に受講

 研修テーマは「令和6年版 確定申告の間違えやすいポイント」で、講師は税理士の柴原一先生です。
 このテーマの研修は早く受講して内容を確認したほうがいいと思い、法定調書を提出後すぐに受講しました。今年度の改正の大きなポイントは「定額減税」です。年末調整でも扱いましたが、給与所得ではない人、給与所得者だけれども確定申告をする人にとって1年だけの制度で間違えることはできないと情報収集に努めていたところでした。
 この制度は批判すればキリがないほど、給与支払者にも会計事務所にも人気のない制度です。調整給付額の計算方法を知ると税金の無駄使いに唖然としますし、源泉所得税が発生しない程度の支給額しかない青色専従者への手当てはこれから検討するという始末。しかし、具体的な申告方法を確認して確定申告業務に臨みました。

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